国内でもコロナウイルス感染症が拡大し、店頭からマスクが消えてしまった3月下旬にリリースされたWebサイト「マスク在庫速報」。スマホ用のWebブラウザアプリ「Smooz」を提供するアスツールが運営するサイトで、大手ECサイトで販売されているマスクを、1枚あたりの価格で比べられることから支持された。その後、検索対象の商品にアルコール消毒液や体温計、ゲームを追加し、サイトの名称を「在庫速報.com」へ変更している。
ブラウザの提供元が、なぜ価格比較サイトを始めたのか? その背景や工夫したポイント、今後の展開などについて、アルツール 代表取締役の加藤雄一氏にうかがった。
1人の社員の問題解決から生まれた
マスク在庫速報のWebサイトは、1人のアスツール社員がマスクを購入できず、困っていた状況から生まれた。当時、マスクは店頭からはなくなってしまったが、ECサイトにないわけではない。「マスクの在庫情報を可視化して、並べて比べられるようにしたら役に立つ。そんなサービスがあったら自分が使いたい、とその社員が言ったことがきっかけでした」(加藤氏)。
需要の高さは想像できた。さらに、コロナ禍の中で「自分たちで何かできないか」と考えたことも開発に踏み切った大きな理由だ。「僕らのようなスタートアップの会社は、問題を解決するために生まれると思っています。コロナ禍で問題はたくさん生まれましたが、僕らの技術で、1つくらい問題を解決できるのではないかという思いがありました」(加藤氏)
開発は、最初にバックエンドを1人で2〜3週間くらいで作った後、もう1人加わってフロントエンドを1〜2週間くらいで仕上げた。「個人サービスみたいなものだった」と加藤氏は笑う。サイトが評判になってからはチームを拡大し、みんなで取り組んでいる。リリース直後は「毎日のようにテレビに取り上げられ、目標もはっきりしていて、人の役に立っていることがうれしかった」と振り返った。
簡単に決められるよう、送料込みの単価を表示
マスクの単価を比較する仕組みは、ECサイト各社が提供しているAPIから情報を取って実現している。そして「僕らの小さなイノベーションは、単価で並べたこと」(加藤氏)。ECサイトの商品データベースに、マスクの枚数情報は登録されていないので、「タイトル(商品名)を言語処理して、枚数をデータベースに入れて、総計を割る形で単価を出している」という。そのため、掲載される情報は「100%正解ではない」が、上位にランクされるものは人間の目で見て修正している他、ロジックを改善しながら対応している。
在庫速報.comでマスク1枚あたりの単価を比較できるようになってから、大手ECサイトでもマスクの単価を掲載するところが出てきているそうだ。
送料込みで単価を出しているのも特徴だ。これはユーザーの要望に応じたものだ。「今は送料無料がほとんどですが、初期にはマスクの価格が1000円なのに、送料が3000円かかるような商品もありました」(加藤氏)。こうした商品が上位に来るとサイトの信用度を落としかねないので、そうした商品がはじかれるように送料込みにしたという。
送料が入っていると、マスクの価格のみで単価を出しているサイトと比べ、同じ商品でも在庫速報.comの方が高額に表示されるため、見え方としてはネガティブだが、加藤氏が語るに「そこは僕らの良心」だ。
また、「簡単に意思決定ができるようにしたかった」と加藤氏は言う。どんなものでもネットで買える時代になり、情報があふれているために、どれを選ぶかという意思決定が難しくなっている。「僕自身、意思決定コストが嫌い。単純にしてくれといつも思っています。在庫速報.comは、基本的には上から順に安い順で並んでいて、単価には送料も入っている。それ以外のファクターは読んでもらう必要がありますが、価格については非常にクリアに、分かりやすくしたかった」
ちなみに、サイトの収益はアフィリエイトで得ている。在庫速報.comからECサイトに飛んで、商品が購入されると報酬が入ってくる。「アフィリエイトについては賛否両論ありますが、僕らとしては公平な情報を出し、それで幾ばくかの手数料をもらうということは適正なビジネスモデルだと思っています」(加藤氏)。
ピーク時には月間で400万人が利用
アスツールはスマホ向けのブラウザアプリSmoozを提供しているが、Webサイトをサービスとして提供するのは初めてだという。そのため「技術的な蓄積が少なく、やりながら学んでいった」と加藤氏は話す。
そもそもアプリとWebサイトではプログラムで使う言語が異なる。また、「Smoozでサーバ側のシステムはいろいろと作っていたんですが、Webサイトのフロントエンド、ユーザーから見える部分は商用サービスとして作ったことがなかった」(加藤氏)ため、技術を覚えていく必要があった。アプリストアで高く評価されるための技術は持っていても、Googleの検索エンジンに認識してもらうテクニックすら、当初は持っていなかった。
ただ、それは特に大きな問題ではなかったと加藤氏。「何年間も一緒にチームで取り組んできて、筋肉質な開発チームは作れていました。新サービスを始めるときも、それが生きました。優秀なエンジニアがいれば、新しい技術にはすぐにキャッチアップできことが分かりました」と自信を見せた。
4月中旬のピーク時には、「月間で400万人くらいの人に使ってもらえた」(加藤氏)というが、サーバダウンなども起こさなかった。
「この手のものを10年位前に作ろうと思ったら、何十人も必要だったかもしれないし、サーバも自分たちで用意しなくてはいけないかった。それがクラウドになって、ポチポチとサービスを選ぶだけで済み、さまざまなフレームワークがあるおかげで、数週間あれば1人で作れてしまう。小さな会社にとっては、チャンスしかありません」(加藤氏)
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需給のギャップを埋められるサイトに
非常に大きな反響を呼んだ在庫速報.comだが、リリースしたときは、ここまで大きな反響があるとは思っていなかったという。「最近は落ち着きましたが、毎日たくさんの人に使ってもらっている」ので「作ってよかった」と加藤氏も満足そうだ。なお、スマホでの利用は7割以上に及ぶ。
在庫速報.comのマスク価格推移調査によると、ゴールデンウイーク明けくらいからマスクの供給が安定してきて価格もかなり落ち、6月に入ってからは1枚あたり9円で安定している。
コロナ禍以前のマスクの価格は、50枚で400円から500円、1枚あたり8円から9円だ。価格だけを見れば、コロナ禍以前に戻っているが、今の価格はボリュームディスカウントで安くなっていたり、海外製マスクが多かったりする。日本製や品質が高く人気のものは、まだ高額が続いている。
そこで、品質を見極める手段として「日本製」や「人気(おすすめ)」というタブを新設した。人気(おすすめ)ではECサイトでの評価が高いものが掲載されている。タブの項目はユーザーの希望に対応して増やしている。
ユーザーの要望に応じる形で、マスク以外にアルコール消毒液や体温計、ゲームの価格も掲載するようになった。
「マスク在庫速報から在庫速報.comへと名前を変えたときに、コロナ禍対策のためではなく、需給のギャップを埋められるサイトにできるのではないかと考えました。需給ギャップはマスクだけじゃなく、今後もいろんなものが生まれるだろうと思いますが、それをこのサイトを使って解決したい」(加藤氏)
「今はやり尽くした感がある」とのことだが、今後、扱う商品カテゴリーも考えている。「リモートワークで品薄になったWebカメラ、家で過ごす時間が増えたことから観葉植物などが今、人気です。以前、売れなかったようなものが売れるようになってきていますが、そこにどれくらい需給のギャップがあるかです。そうした状況を見て検討しながら、拡大するカテゴリーを検討している段階です」(加藤氏)
カテゴリーの拡大は短時間の作業でできるようにしており、今後も素早く対応していくという。
iOSアプリが削除された理由
在庫速報.comは、スマホ向けアプリも提供されている。当初はiOS向け、Android向けを用意したが、現在、ダウンロードできるのはAndroid版のみだ。
Webサイトリリース当初は、これほどニーズが高まると思っていなかったので、アプリ化は「全く検討していなかった」という。ただ、多くの人に使われる中で、「ニュースや天気予報を見るような感じで、マスクの価格をチェックするために使われていることが分かった」(加藤氏)そうだ。そうなると、ブラウザからWebサイトにアクセスするより、アプリでワンタッチでチェックできる方が便利だ。また、「価格変動があったらプッシュ通知を送るという機能もアプリにフィットする」と考え、アプリを開発した。
特にiOS版アプリのダウンロード数は好調に伸びていたが、残念ながらアプリは削除されてしまった。Appleは新型コロナウイルス関連アプリに関して、「COCOA - 新型コロナウイルス接触確認アプリ」のような公的機関が公開するアプリ以外を認めないというガイドラインを示しており、それに伴った削除のようだ。
一般開発者のアプリを認めてしまうと、この機に乗じてコロナ関連アプリが玉石混交で大量に配信され、いいものと悪いものを見分けるのが困難になるとAppleは判断したのだろう。理解はできるが、在庫速報.comについては、多くの人に役立つアプリであっただけに、非常に残念だ。
なお、Android版アプリは引き続き配信されている。Webサイトでも、アプリでいち早く対応していた絞り込み検索や並び替えができるようにするなど、機能は日々アップデートされている。
需給ギャップを埋めるサービスとして提供したい
マスクの品薄は落ち着きつつあるが、在庫速報.comは継続していくという。
「需要がある限りはやっていく。商品の需給バランスは今後、マスク以外でも崩れていくものがあると思いますので、そこを解決する活動をやっていきたい」(加藤氏)。
先日は、ユニクロやアイリスオーヤマといった、人気ブランドで購入が難しいマスクの入荷情報通知を受け取れる機能を追加した。
「ブランドものマスクの需要が高く、そこはまだ需給バランスが崩れているところ。この通知機能はウチには何の売り上げにもならないんですが(笑)、ユーザーが求めていることだと思うので」(加藤氏)。
需給バランスを解消するサービスであれば、マスク以外のどんな製品でも同様のサービスが提供できる。加藤氏も「リクエストに応じてどんどん拡大する」と語っている。新たな買いもの支援サイトとしての成長が楽しみだ。
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July 13, 2020 at 01:30PM
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