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【歴史の交差点】銀盤の演技者の真価 富士通FSC特別顧問・山内昌之 - 産経ニュース

富士通FSC特別顧問・山内昌之氏

フィギュアスケートは、体を自在に空中へ飛躍させ、広い銀盤で速力を落とさずダイナミズムを維持する運動競技である。しかも、表情はもとより、指の先から足先まで繊細な表現と芸術性も要求される稀有(けう)のスポーツにほかならない。身体の強健さと表現の繊細さが合致しないと、競技の頂点を極められない。その意味で、トリノで開かれたグランプリ(GP)ファイナルで日本人選手4人が男女のシングルとペアで優勝したのは快挙といってよい。サッカーワールドカップ(W杯)の日本チームの大活躍とともに、心を癒やされた人も多かったに違いない。

なかでも三原舞依選手の金メダル演技に感動した人は、日本だけでなく世界でも多かったはずだ。彼女が両膝に激しい痛みを感じる難病「若年性特発性関節炎」に苦しんだことを知っているからだ。膝と下半身に大きな負担を強いられ、フィギュア断念の瀬戸際まで追い込まれたのである。三原さんを観(み)る客たちは、スポーツへの尊敬心をゆるがせにせぬままに、なぜか演技中から涙を流していた。フィギュアを続けた不屈の敢闘精神への感動のためであろう。

同時に、彼女がしきりに語る周囲やファンへの感謝の念、演技できる喜びを表現する日本語があまりにも謙虚で気品があるからだろう。三原さん自身は闘病のなかで、心の乱れを完全に免れることはできないと知ったのかもしれない。彼女が非凡なのは、心や技が乱れても、それを緩和しながら演技する術(すべ)を知ったからではないか。

三原さんの繊細さと強い意志力を感じさせる演技を見るにつけて、音楽で連想するのはドビュッシーの印象主義と抒情(じょじょう)性である。あるいは作曲家、三善晃の「ヴァイオリン協奏曲」(昭和40年)に代表される初期作品の楽想かもしれない。

さながら、詩的な優美さはもとより耽美(たんび)性さえ伴いながら、爽快なリズム感を躍動させる演技で、観客を静寂と高揚の交差する世界に導けるフィギュア選手はさほど多くない。私の記憶では、2006年トリノ五輪出場を期待されながら、足首の故障で選手生活を断念した太田由希奈さんもその一人ではなかったろうか。

五輪や世界選手権には、できるだけタイプの違う選手を派遣した方がよい。北京五輪に三原さんが参加できなかったのは、日本選手の技術と表現力の多様性を示せる絶好の機会でもあっただけに残念というほかない。

三原さんの真価はむしろ外国人のほうが見抜いているかもしれない。今回のGPの直前にも、ロシアのメディア「スポルト24」の記者が三原さんを女子シングル優勝の本命に挙げていたのはさすがであろう。また、ロシアの芸術派フィギュアの伝統を受け継ぐエリザベータ・トゥクタミシェワ選手がかねて三原さんを高く評価していることはよく知られている。

いま休養中の人たちも、三原さんから刺激と感動を受け、一日も早い本復と銀盤復帰を願っておきたい。 

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