鹿島特別支援学校(茨城県鹿嶋市)で最大約八十分の長時間通学が児童生徒や保護者の負担となっていた問題で、県は四日、神栖市須田の市有地に神栖特別支援学校(仮称)を新設し、長時間通学を解消すると発表した。二〇二七年四月の開校を予定する。県は昨年まで「新設の予定はない」と説明していたが、神栖市内の保護者らが五月に新設を求める署名約一万筆を提出して流れが変わった。(長崎高大)
現在県立特別支援学校は二十三校ある。鹿行地域には鹿島の一校しかなく、神栖市の旧波崎町地域から約四十キロ離れている。八十分の通学時間は県が内規で定める上限ぎりぎり。自宅からバス停までの時間を含めたり、渋滞を考慮したりすると実際には超えるケースもある。新設で最も長い通学時間は約四十分になる。
新設校は神栖市内を通学区域とし、小学部から高等部まで計三十五学級約百五十人の児童生徒数を想定する。学校敷地は、神栖市若松運動場に隣接する市有地を県が無償で借り、予算規模は約四十億円を見込む。
県の推計では、県内の特別支援学校の児童生徒数は二五年の四千三百六十八人をピークに減少に転じる。このため新設には慎重だった。長時間通学の問題に対しては、スクールバスの運行コースの見直しや増車による対策を講じたが、通学距離の長さという根本的な問題は解消できなかった。
そんな中、「神栖市に特別支援学校を求める会」が五月、九千九百三十九筆の署名を県と県教育委員会に提出し、県と県教委は改めて対策を検討した。四日の記者会見で大井川和彦知事は、新設の経緯について「多くの方々の署名を受け、緊急に対応する必要性があると判断した。廃校や既存施設の利用も検討したが費用的に大差なく、新築がベストとの結論に至った」と説明した。
◆親としてできる最後のこと 提出直前に長男を失った中谷さん
県を動かしたのは保護者らの署名だった。「神栖市に特別支援学校を求める会」を立ち上げ、署名集めを始めた中谷みずほさん(35)=神栖市=は今年一月、活動の原動力だった脳性まひの長男蒼頼(そら)ちゃんを失った。享年六歳。二カ月後には鹿島特別支援学校への入学を控えていた。今回、神栖特別支援学校の新設が決まると、中谷さんは「障害のある子どもの親としてできる最後のことだった。ほっとしている」と話した。
蒼頼ちゃんは医療的ケアが常時必要な肢体不自由児だったため、鹿島に入学したとしても通学バスは利用できず、中谷さん自身が送迎する必要があった。負担の大きさなどから、中谷さんは特別支援教育環境の改善を考えるようになった。
中谷さんは「最初は自分の子どものことだけを考えて始めた活動だった。署名は千筆も集まればいいと思っていた」と振り返る。ところが、昨年十~十二月の二カ月間で一万筆に迫る署名が集まり、予想以上にこの問題に共感する人が多いことに驚いた。
そんな中、署名提出を控えた一月に蒼頼ちゃんの容体が急変し、帰らぬ人となった。中谷さんは外出もできないような精神状態になり、周囲にも「署名提出はできません」と伝えた。
混乱する日々が続いたが、多くの署名を集めながら活動を中断していることに、責任も感じていた。署名を集め終えてから半年近くたった五月、「何のために活動しているんだろうと考え込むこともあったが、最後の力を振り絞った」と、提出までやり遂げた。
現在もほとんど外出できない日々が続く。中谷さんには元々、「肢体不自由児の学校卒業後の居場所づくり」という夢があり、社会福祉士の資格を得るためオンラインで大学にも通っている。しかし、蒼頼ちゃんの急逝で、将来のことは考えられなくなった。
今後について「将来は自分が育てた経験を生かせることはしたいけど、どうなるかは分からない」と話し、「ただ、(蒼頼ちゃんが)生まれてきてくれたことは本当に幸せだった。社会的には小さな存在だけど、家族にとっては大きな存在だった」と、言葉を振り絞った。
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