特別展 北斎 |
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会場:九州国立博物館(福岡県太宰府市石坂4-7-2) |
会期:2022年4月16日(土)~6月12日(月) 月曜休館 |
アクセス:西鉄太宰府駅から徒歩約10分 |
開館時間:9時30分~17時(金曜日・土曜日は夜間開館で20時まで)※入館は閉館の30分前まで |
観覧料:一般1,800円 大学・高校生1,000円 中学・小学生600円 |
※最新情報は公式サイト(https://www.kyuhaku.jp/)で確認を。 |
やはり壮観であった。九州国立博物館で開かれている特別展「北斎」の目玉は、2017年に同館の所蔵品となった「日新除魔図」(宮本家本)の一挙公開である。御年80歳を超えた葛飾北斎が約1年間描き続けた219枚の獅子たち。勇壮だったりユーモラスだったり、かわいらしかったり神秘的だったり。様々な表情の獅子の絵が壁面いっぱいに並んでいるのだ。開幕からひと月が経った平日でも、ご覧の通りたくさんのお客さん。会場を一覧すると「それも当然かな」と思ってしまうボリュームとクオリティーである。
重要文化財に指定されている「日新除魔図」は、信州小布施(長野県小布施町)の宮本家に伝わっていた4冊の画帳の総称である。古くからの付き合いがあった同家に依頼された絵を描けないままでいた北斎が「代わりに」と贈呈したものだという。「日々新たに魔を除く」ことを願って、描き続けた神獣。そこに記されている日付を見ると、ほぼ毎日、北斎は獅子図を手がけていたことが分かる。
誰に頼まれたものでもない、「好き」で描いていた作品だからだろうか、のびのびとリラックスした筆致が印象的だ。軽妙、荘厳、細かく描き込まれている絵もあるし、サラサラッと筆を走らせたようなモノもある。描法だけでなく、題材も多彩だ。ちょっと哲学的な表情で雲間に漂う獅子もいれば、春を寿ぐ獅子舞の姿もある。獅子の絵や雪像を作っている子どもたちもそこにはいるし、歌舞伎の舞台も題材に取られている。画題の広さ、高い技巧、発想の豊かさは『北斎漫画』などでも見て取れるところだが、前を向いたり背中を見せたり、雨に打たれたり風に吹かれたり、一枚一枚生き生きとした表情の獅子たちを見ていると、改めて自由自在、融通無碍なその画力に、感嘆せざるを得ない。
まあ、この「219枚」だけでも十分満足、「おなかいっぱい」なのだが、見どころはまだまだある。小布施に残された祭屋台の天井絵、美人画などの肉筆画なども、大いに見応えがあるのである。前期(5月15日まで)の展示だった《富士越龍図》を見逃してしまったのは残念だが、北斎独特の水面の表現が見られる重要美術品《遊亀》など、質の高い作品が並ぶ。緻密なデッサンと高い構成力。幾何学的な「かたち」の面白さや大胆な構図が目立つ『冨嶽三十六景』などの浮世絵版画とはまた違った北斎の肉筆画の魅力が十分に堪能できる。
個人的にちょっと目を引いたのは、「摺物」のコーナーだ。「摺物」とは踊りの会の宣伝や襲名の名披露目で配布するために作られる「販売を目的としない」印刷物だが、不惑になるやならずやの北斎は、このジャンルの仕事も多く手がけていたようで、40歳前後の「生活」が何となく頭に浮かんでくる。北斎の影響は国内にとどまらずゴッホなど印象派の画家にも及んでいるのだが、エミール・ガレの花瓶や「セルヴィス・ルソー」の皿などを展示して、「ジャポニズム」の広がりを見せたのも面白い。
もちろん《冨嶽三十六景》や《諸国瀧廻り》などの浮世絵版画の名品も、十分に堪能できる。「219枚」の鮮烈さ、その画業への幅広い目配り、「世界一有名な浮世絵師」である北斎の展覧会は今年も日本各地で数多く開かれているが、これだけスケールの大きい展覧会はなかなかない。
(事業局専門委員 田中聡)
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