57年前の1966年に静岡県のみそ製造会社の専務一家4人が殺害された事件で、東京高検は20日、強盗殺人罪などで死刑が確定した袴田巌さん(87)=釈放=の再審開始を認めた13日の東京高裁決定を受け入れ、最高裁への特別抗告を断念する方針を固めた。特別抗告の期限の20日に発表する。関係者への取材で分かった。
再審開始が確定することになり、袴田さんは今後、静岡地裁で開かれる再審公判で無罪となる公算が大きい。
衣類の血の色が争点
死刑囚が再審で無罪になるのは、80年代の免田、財田川(さいたがわ)、松山、島田の4事件以来、30年以上ぶり5例目。特別抗告は高裁の判断に憲法違反や判例違反がある場合に限られ、検察側は「特別抗告できる理由がない」と判断したとみられる。
事件は66年6月に発生し、同年8月にみそ製造会社の従業員だった袴田さんが逮捕された。公判中の67年8月、工場のみそタンク内から血痕がついたTシャツやズボンなど「5点の衣類」が見つかった。静岡地裁は68年、この衣類を犯行時の着衣として死刑判決を出し、後に確定した。
捏造の可能性に言及
今回の再審請求審では、静岡地裁が2014年に再審開始決定を出したが、18年に東京高裁が取り消した。最高裁は20年、衣類に付着した血痕の色の変化に争点を絞って高裁に審理を差し戻した。
13日の高裁決定は、弁護側の実験や専門家の意見に基づき、「1年以上みそに漬かれば化学反応が起きて血痕は黒褐色になる」と認定。「赤み」が残る5点の衣類は、事件から約2カ月後に逮捕された袴田さんではなく、「相当期間を経過した後に第三者が隠した可能性がある」と指摘した。「第三者は捜査機関の可能性が極めて高い」として捏造(ねつぞう)の疑いにも踏み込んだ。
こうした新証拠により、「衣類は袴田さんの犯行着衣で、袴田さんが犯人」とした確定判決には「合理的な疑いが生じる」と述べ、再審開始を決定した。
75年に最高裁が示した「白鳥決定」は、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則は再審にも適用されると明示し、「新旧証拠を総合評価して、確定判決の事実認定に合理的な疑いを生じさせれば足りる」としている。
高裁決定をめぐっては、この判例に加え、最高裁が示した唯一の論点に対し、検察側と弁護側が2年近くかけて立証を尽くした経緯も踏まえれば、特別抗告しても結論は覆らないとの見方が少なくなかった。
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