植草学園短期大学特別教授 佐藤愼二
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「教科書36㌻の問題の4番をやります」と指示すると、「先生、何て言ったのー!」と問い返す子どもの姿が見られる。努力してもうまく聞き取れない子どもがいる。聴覚的な記憶の箱が小さく、一度に2つの指示(36㌻を開く+4番を見る)がうまく頭に入らないのである。
その子どもに「ちゃんと話を聞いてなさい!」と注意を繰り返しても、問題は解決しない。聞こうと努力をしてもうまくできない子どもへの注意が繰り返され、その子どもは次第に意欲を失うか反発する。
一方で、視覚障害の子どもに「なぜ黒板の字を読めないんだ!」と叱責(しっせき)する教師はいない。本人の努力だけでは見えないことを教師が理解しているからだ。同様に考えれば、努力をしてもうまく指示を聞き取れない子どもへの注意・叱責は、おそらく「医療ミス」以上の「教育ミス」になるだろう。
これは、「努力不足」として誤解される事例の典型であり、「見方を変えて、支援を変える」必要がある。例えば、先の一文二動詞の指示ではなく、「36㌻を開きます」「問題の4番をやります」と一文一動詞の指示に変える。発達障害などにより聴覚記憶の箱が小さい子どもにとって、そうした指示の仕方は「ないと困る支援」である。
一文一動詞の指示にはメリハリがあり、障害の有無にかかわらずどの子どもにとっても聞き取りやすい「あると便利で・役に立つ支援」になる。これが通常学級ユニバーサルデザイン(以下、本連載ではUDと記す場合もある)である。
小中学校で知的発達に遅れはないものの学習面や行動面で著しい困難を示すとされた子どもの割合が、通常学級に推定値8.8%と報告(文科省、2022年12月)されたことは記憶に新しい。この現実は、「特別」で「個別」な支援教育の前にまず、日常の学級・授業づくりで実践できる「通常学級担任による・通常学級担任のための・通常学級担任の『特別』ではない支援教育モデル」の必要性を強く示唆する。
本連載では、「通常の学級」に焦点を当て、8.8%の子どもたち(以下、本連載では「配慮を要する子ども」と記す)も包括するユニバーサルな学級経営・授業づくりの実際について検討したい。
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【プロフィール】
佐藤愼二(さとう・しんじ)植草学園短期大学特別教授、放送大学客員教授。特別支援教育士スーパーバイザー。千葉県内の特別支援学校、小学校に23年間勤務し、植草学園短期大学に着任。教員養成に携わる。主な著書に『通常学級の「特別」ではない支援教育-校内外支援体制・ユニバーサルデザイン・合理的配慮-』(東洋館出版社)、『逆転の発想で 魔法のほめ方・叱り方』(同)、『「気になる」子ども 保護者にどう伝える?』(ジアース教育新社)など多数。
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